素敵な女性を追って

着物&所作のブログ 心の支えになる素敵な女性を追って vol.4 井上靖『額田王』より

心の支えになる素敵な女性を追って

4回目の今回は、井上靖の作品『額田女王(ぬかたのおおきみ)』より。
舞台は日本。時代は古代、飛鳥時代。
主人公は、美しき宮廷歌人、額田女王(ぬかたのおおきみ)。
歌人であり巫女でもある額田女王は身も心も神に捧げているため、男性を愛してはならぬ身。しかし額田は美し過ぎました。

この額田から学びたいのは
『困った人への苦言の呈し方』

額田は上品でありながらもはっきりと苦言を呈しています。騒がず、落ち着いて、効果的に相手に分からせる。是非とも身につけたい技のひとつです。

美し過ぎる額田は、時の権力者である中大兄皇子と大海人皇子の両人から寵愛を受けます。
最初に額田を愛したのは大海人皇子でした。
彼は半ば強引に額田を奪い、額田は皇子の子供を身ごもります。
前述の通り、額田は巫女ですから妃になることは許されません。神の声を聞き、国の民のためのみにその力を使わねばならないからです。
しかも大海人皇子は、ナンバー2の権力者。黒々とした政治の世界に身を置く人物です。
たとえ当人同士の想いが通じているからと言って、簡単に一緒になることはできませんでした。
額田はお腹の子を『神の子』と言って通します。しかし誰の目にも大海人皇子の子供であることは明らかでした。ほとんどの宮廷人が気付かぬふりをする中、若い侍女が『大海人皇子のお子様では?』と噂を立てます。
ある時、額田はその若い侍女を呼び、赤子を胸に抱きながら、こう問います。
『この御子はどなたかに似ていますか?』
当人からハッキリと問われて侍女は身を固くします。
『お困りか。構わないから言ってごらん。』
『さぁ…』
と言葉を濁す侍女を更に問い詰める額田。
『ーー眼許も生き写しなら、口許もそっくりそのままです。……一体どなたでしょう。構わないから言ってごらん。』
『さ、わたくしにだけ、そっと言ってごらん』
額田はいたずらっぽく笑いを含んだ顔でそう言います。
ついに侍女は思わずこう言うのです。
『お許しくださいませ』
その時の額田の言葉。

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『許してくれとお言いなら、ゆるしてあげましょう。…気の小さいひとね』
額田女王は言って、また笑った。玉を転がすようなろうろうとした笑い声だった。
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言葉の達人。そう思わずにはいられません。
私はこの場面の、額田の堂々とした姿に惚れ惚れしました。
ゆっくりと真綿で首を絞めるが如く。
上品でありながら、しかし一歩も引かない強さがあります。

見習うべきはその状況です。
ここで額田は、侍女と 1 対 1 で言葉を交わしています。前もって誰かを味方につけておくとか、この侍女を孤立させるとか、そう言った邪な行動は起こしません。
正々堂々と 1 対 1。

そして何より私が心惹かれるのは、最後に相手を許して帰すところです。追い詰めておきながらトドメを刺さずに逃す。

これならば侍女も恨みを持ちません。もしかしたら、この一件の後で、尊敬の念すら抱くかもしれません。大人の社会の仕組みを額田が教えてくれたからです。根底に愛情があります。
聡明でありながら温もりを感じます。

自分の感情を完全にコントロールしているからこそできる技。身につけたいものです。


by 工藤

2019年01月04日